隣人はヒモである【完】
他人の事情
ピンポン、となったチャイムには、いつの時間帯であろうと少しびっくりしてしまう。
一人暮らしを始めてから、心当たりのない人のチャイムには反応しないように心掛けている。
まだ日も沈まない時間帯だというのに、ちょっとびびりながら覗き窓に目を当てた。音をたてないよう細心の注意を払い、息を止めたまま。
そこにいた見知った人物にちょっとだけ戸惑って、一瞬開けるべきか居留守を使うべきか判断を迷う。
意外も意外。隣人。
いやに真面目の女のほう。
「……はい」
「……」
「……はい」
「……あ、秋元です。……あの、お隣の……」
迷った挙句、少しだけドアを開くと、秋元と名乗った彼女がカサカサの唇をもごもごと動かし、何か言いたげにあたしを見ている。
ちょっと気味が悪い。ていうか、秋元っていう苗字だったんだな、なんてぼんやり考えながら、いったいどんな用事があるのか見当もつかないで、愛想笑いを顔面に貼り付けた。