隣人はヒモである【完】
「……朝、話しているのを、……見てしまって。……私には彼だけなの。……お願いします。お願い。……レオを奪わないで、ください」
「……ええと」
今にも泣きだしそうな顔で、震える声で、あたしに懇願する女性を前にして、なんと声を掛けたらいいのかわからなくなった。
この人はあたしを彼の浮気相手か何かと勘違いしているのだろうか。
そうだとしたら全くの見当違いだし、至極心外だ。
戸惑いで言葉を詰まらせているあたしを、秋元さんは不安げにちらりと見る。
……とらないで、とか。奪わないで、とか。
そんなつもりは一切ないどころか、考えたこともなかった。
朝のごく短時間、たった一言挨拶を交わしただけで、この人はどこでその様子を見ていて、どう誤解して、わざわざあたしの家のインターホンを鳴らし、泣きそうな声でどうして釘を刺しているんだろう。
この人はやっぱり、可哀そうな人だと思う。
はい、とあいまいに頷いた。
「大丈夫ですよ。あの、朝も、……挨拶してただけだし」
はまってるなあ、あの男の人のどこがいいのか。抜け出せない底なし沼にずぶずぶにはまってる。可哀そうなヒト。