それでもあなたを愛してる
「ねえ、お姉さん! 良かったら、うちの店で遊んでいかない? すぐそこのホストクラブなんだけど」
スーツの男は派手な看板のお店を指さした。
ホストクラブ?
私は彼の言葉に首を傾げた。
初めて聞いた単語だったから。
「あの……ホストクラブって、サークルか何かのことですか?」
私の質問に、男は「は?」と言って固まった。
「それ…マジで言ってんの?」
そして、お腹をかかえておかしそうに笑い出した。
「そんなに面白かったですか」
初対面の人にバカにされて、さすがにムッとくる。
「あ~ごめん、ごめん。悪かったよ。それより、君ってさ、もしかして、どっかのお嬢様? お父さん何してるの?」
「会社の社長を…してますけど」
「え! マジで社長令嬢?」
「そ、そうですけど…」
男の目が途端に輝いた。
「へえ~。じゃあさ、やっぱりうちで遊んでいきなよ。ホストクラブはね、君みたいなお嬢様を俺らホストが誠心誠意おもてなしするところだからさ。きっと楽しいよ?」
ね?と言いながら、男は私の肩に手を回した。
「やめて下さい!!」
私は咄嗟に彼を突き飛ばした。
圭吾以外の男性に触られたことなんてなかったから、ビックリしたのだ。
「あ、ごめんね。でも、お店には寄って行ってよ。絶対に後悔させないからさ」
彼はそう言って、今度は私の腕を掴んできた。
「嫌です、離して下さい!!」
思いきり振り払ったその瞬間、肩にかけていた私のバックが地面に落ちた。
「あっ」
慌てて拾おうとしたのだけど、
どこからともなく現れたマスクの男が、私のバックを掴んで走り去って行った。
「え……うそ」
もしかして、ひったくり!?
「ヤダ、どうしよう! バック盗られちゃった! どうしよう!」
パニックになった私は、藁をも掴む思いでスーツの男に助けを求めた。
けれど、
「お金無いんじゃ仕方ないね。残念だけどまた今度ね~」
男は手のひらを返したように素っ気なく言うと、私を残して去って行った。