それでもあなたを愛してる
誰もいない夜の待合室で、
私はひとり泣き続けた。
父がいなくなってしまうという恐ろしい現実を、
どうしても受け止めきれなかった。
悲しみと絶望で胸が押し潰されそうだった。
「佐奈」
見上げると、圭吾が私の好きなミルクティーを持って立っていた。
マサヨさんには先に帰ってもらったけれど、圭吾は残って父に付き添っていてくれたようだ。
「ほら。体冷えただろ?」
そう言って、温かいミルクティーを私に差し出した。
「ありがと」
さすがに同情してくれているようだ。
「佐奈、送ってくから、今日は一旦家に帰ろう。医者も言ってたけど、今は安定しているし心配ないそうだから」
「……でも」
「佐奈まで倒れたら、社長が悲しむだろ?」
「……うん」
圭吾の言葉に頷き、私は一度家に帰ることにした。
……
「圭吾は知ってた? 父の病気のこと」
帰りの車の中で尋ねると、圭吾はやっぱり頷いた。
「俺は病院にも付き添ってたから。黙っててごめんな」
「いいよ。父が口止めしてたんでしょ」
ちょうど圭吾とのこともあったから、言うに言えない状況だったのだろう。
「社長は佐奈の将来を凄く心配してるよ。自分がこの世を去った後、佐奈の周りには財産目当ての男や次期社長の座を狙う男が間違いなく近づいてくる。そうなれば、世間知らずの佐奈は、騙されて不幸な結婚をしてしまうかもしれないって。だから、社長は必死で佐奈の縁談話を進めようとしたんだよ。自分が見込んだ相手に佐奈を託し、佐奈の幸せを見届けようとしたんだ」
「…………」
「強引に感じたかもしれないけど、全部佐奈を想ってのことだよ。だから、佐奈も社長の気持ちをくんで、縁談の話を前向きに考えてみたらどうかな。これは佐奈自身の為でもあるし、佐奈だって社長を安心させてあげたいだろ?」
圭吾の言っていることは理解できる。
私だって、父の想いに答えて、ちゃんと安心させてあげたいって思う。
でも……。
好きな人から、見合いをしろと言われることほど残酷なことなはない。
「気持ちは、まだ圭吾にあるのに?」
私は圭吾の顔をまっすぐに見上げた。
この想いをどうしろというのだろうか。
「ごめん。俺に期待しても時間の無駄だから。今すぐ諦めて」
キッパリと言われてしまった。
「そっか。あんなに好きだって言ってくれたのに、本当に全部お芝居だったんだね」
もう恨む気力さえ残っていなかった。
「分かった。お見合い……考えてみるよ」
圭吾と結婚できないのなら、誰としたって同じだから。
「そうか…。それじゃ、縁談の件は俺が責任もって進めるから。佐奈は俺の顔なんてもう見たくないかもしれないけど、社長から託された最後の仕事だから…。ごめんな」
そんな言葉を呟きながら、ホッとした表情を見せる圭吾を、やっぱり憎らしいと思った。