それでもあなたを愛してる
3

それから一週間が経った。
父は病状も落ち着き、とても元気にしていた。

圭吾が会社から持ってきた書類に目を通したり、他の役員に電話で指示したりと。

入院生活を送りながら、社長の職務をしっかりとこなしていた。


『佐奈もお父さんの付き添いなんてしなくていいからな。それより自分の生活を優先させなさい』

私には顔を見せる程度でいいと、ここ数日は病院へ行ってもすぐに帰されるようになった。

少し寂しい気もしたけれど、私を想ってのことと理解し、大人しく従うことにした。

そんな中、
マサヨさんとのお別れの日を迎えた。

『お嬢様、大変お世話になりました。こんな時に本当に申し訳ありません。何かあればいつでも連絡下さいね。わたくし飛んで参りますから』

別れ際、マサヨさんは涙を流し、そう言ってくれた。

『ありがとう。マサヨさんこそお父様の介護頑張ってね』

本当はとても心細かったけれど。
マサヨさんに余計な心配をかけぬよう、私は精一杯の笑顔で送り出したのだった。

そして、一夜明け。
マサヨさんのいない初めての朝を迎えたのだけど。

『お嬢様、申し訳ありません。わたくし腰を痛めてしまいまして、車の運転ができなくなってしまいました。しばらくはハイヤーをご利用頂けますでしょうか』

西澤さんから、そんな電話をもらってしまった。

『分かりました。西澤さんもお大事にしてね』

仕方のないことなのだけど、こんなに重なってしまうと独り取り残されたような孤独感を感じてしまう。

私は電話を終えた後、受話器を手にしたまま、その場でしばらく落ち込んでいた。

と、その時だった。
『ピンポーン』と来客を知らせるインターホンが鳴った。

私はハッと我に返り、急いで玄関へと向かった。

「はい」

ドアを開けると、そこにはスーツ姿の圭吾が立っていた。

「あ…圭吾。……おはよう」

「今、佐奈は、ちゃんとカメラで確認してから開けた?」

圭吾は少し厳しい口調。

「ううん。急いでたから直接玄関に来ちゃった」

私の言葉に圭吾は深くため息をつく。

「あのな…いきなり開けたら危ないだろ? もし、強盗だったらどうするんだよ。今この家には佐奈一人しかいないんだぞ? もっと警戒しなきゃダメじゃないか。何かあってからじゃ遅いんだからな?」

「わ、分かったよ。今度から気をつけるけど…圭吾はこんな朝から一体何しに来たの?」

「ああ。ちょっと上がらせてもらうな。大事な話があるから」

「あ~うん、分かった」

こうして、とりあえず圭吾に上がってもらうことになったのだけど…。

「あれ。佐奈、なんか焦げ臭くないか?」

圭吾は鼻をきかせながらキッチンへと向かった。
私は慌てて圭吾を追いかける。

「待って、そっちはダメなの、圭吾!」

キッチンには、見られたくないものがあったから。

けれど…。
一足遅かったようで、圭吾は焦げたフライパンの中身を見つめていた

「これ…原型は何?」

「………ベーコンエッグ」

「そっ…か」

そして、圭吾の視線はお皿に乗せてある真っ黒なトーストへと移った。

恥ずかしさで、かあーと顔が熱くなる。

「わ、笑えばいいじゃない! 料理もろくにできない世間知らずなお嬢様だって…」

きっと、七菜さんだったらこんなみっともない失敗はしないはず。
何もできない私が彼女に適う訳もなかったし、圭吾が私を相手にしなかったのも当たり前だ。
そう思ったら、涙が浮かんできた。

「別に笑わないよ。今までマサヨさんがやってくれてたんだし、社長からも火傷するからって料理は禁止されてたんだろ? 佐奈ができないのは当たりまえだよ」

圭吾は私を励ますように言うと、「泣かなくていいよ」と私の頭を優しく撫でた。

そして、私をテーブルに座らせると、手際よく朝食を作り始めたのだった。








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