それでもあなたを愛してる
「佐奈ちゃん、無理して笑わなくていいんだよ。本当はお見合いなんかしたくないんでしょ…やっぱり断った方が」
「ううん、いいの。散々悩んだけど、もう覚悟は決めたから。父もね、今は持ち直して元気にしているけれど、あとどれくらい生きられるか分からないの。生きているうちに花嫁姿を見せて親孝行してあげたいしね。私なら大丈夫。心配してくれてありがとね」
「佐奈ちゃん……」
にっこり微笑むと、万里ちゃんは「そっか」と呟いて、しばらく何かを考え込んでいた。
「あっ、万里ちゃん、ごめん。そろそろ時間だから、私行かなくちゃ」
時計の針は約束の3時。
私は慌てて立ち上がる。
「うん。いってらっしゃい。頑張ってね」
万里ちゃんに見送られ、私は裏門へと急いだ。
………
裏門には、いつもの場所に圭吾の車が止まっていた。
けれど、
圭吾は珍しくシートを傾けて、額を手で覆いながら目を閉じていた。
もしかして、具合が悪いのかな…。
『少しだけ寝るから、1時になったら起こしてね』
夜中にそんな無茶なお願いをしていたことを、ふと思い出す。
しかも、頼んだ私の方は結局起きられず、毎回圭吾にベッドまで運ばせていたのだから。
「圭吾。ごめんね。私のせいだよね? 大丈夫?」
助手席に乗り込んで圭吾の顔をのぞくと、圭吾は「ん?」と言いながらゆっくり目を開けた。
「あ~ごめん。ちょっと寝てた」
急いでシートを戻す圭吾。
でも、やっぱり顔色が悪い。
「圭吾…体調悪いの?」
「大丈夫…ただの寝不足だよ」
圭吾はエンジンをかけながらそう言った。
「ごめんなさい。私のせいでしょ?」
「まさか。寝不足は仕事のせい」
ふっと優しく微笑みながら私の頭に触れてくる仕草は、結局今でも変わらない。
多分、彼のクセなのだろうけれど、こっちはいちいちドキッとさせられてしまう。
「それより、今日の試験どうだった?」
「あー うん。まあ何とか単位は大丈夫だと思う」
「そっか。あの短期間でよく間に合わせたよな」
「うん。私ね…頭はそんなに悪くないの」
ちょっと得意気に言ってみる。
すると、
「そうだよな。ちょっと鈍くさくて、ただ世間知らずなだけなんだよな」
圭吾がイタズラっぽく、クスリと笑った。
「は? ちょっと、調子に乗らないでよね! 私、まだ圭吾のことちゃんと許した訳じゃないんだからね! 今日の人が素敵な人じゃなかったら許さないんだから。ちゃんと最後まで責任もって、私の幸せを見届けてよね!」
プンと怒ったフリをする。
もういいのだ。
もう圭吾への想いは封印しようと決めたから。
「佐奈……」
一瞬、言葉に詰まった圭吾。
「そうだな。ちゃんと、見届ける…」
少しの沈黙の後、そんな言葉が運転席から聞こえてきた。