それでもあなたを愛してる
「ところで、圭吾。今ってどこに向かってるの?」
チラリと運転席を見る。
まだ昼の3時だし、一度家に帰るものだと思っていたけれど、何故か圭吾は逆方向に車を走らせていたのだ。
「ん? あ~まあ、じきに分かるよ」
圭吾ははぐらかすように笑って答えると、ウインカーを出して『青山通り』と記された道へと入って行った。
そして、たどり着いた先は、
とある高級ブランドのブティックの前。
そこは、いつだったか圭吾に、『もう少し大人になったら、いつかこのブランドの服を着て圭吾とデートしてみたいな』と、話していたお店だ。
「えっと……ここ?」
「そう。佐奈の気に入る服、あるといいな」
圭吾はそんなセリフを、ドアの前で甘く囁いてきたけれど。
「ま、待って! 私、今日は持ち合わせもないし、もし今日のお店がドレスコードとかあるのなら、家に帰って着がえれば済むことだから」
私は圭吾の腕を掴み、首をブルブルと横に振った。
だって、ここのブランドの服は桁違いに高いのだ。
いくらお見合い相手に会うからと言ったって、さすがに躊躇してしまう。
「佐奈。服は俺からのプレゼントだから気にするな。遅くなっちゃったけど、誕生日プレゼントだよ」
「いや、でも」
私は足をピタリと止めた。
確かに今年は何も貰ってはいないけれど、私との恋人契約だって切れたのだから、圭吾にそんなことをしてもらう義理もない。
けれど、
「いいから、おいで」
「あ…ちょっと、圭吾」
強引に圭吾に手を引かれて、私は店の中へと連れ込まれてしまった。
すると、
「いらっしゃいませ」
すぐに、にこやかな顔をした店員がやって来た。
「どういったものをお探しでしょうか?」
「うん。彼女に合う少しフォーマルなドレスを…」
「お色のご希望などございますか?」
圭吾は店員の女性と話し始めた。
店内を見渡せば、やっぱりどれも私には少し大人っぽいドレスばかり。
やっぱり断ろう。
そう思っていると、店員さんが淡いピンク色のワンピースを奥の方から出してきた。
「こちら、新作の一点ものなんですが、お客様にとてもお似合いかと。宜しければご試着なさってみますか?」
「そうだね、佐奈に似合いそうだな。佐奈、ちょっとこれ着ておいで」
圭吾が目を輝かせた。