それでもあなたを愛してる
6
圭吾が電話を終えて戻ってきた。
「お友達、なんて?」
「ああ。仕事でちょっと遅れるから先に食べててくれって」
「そう」
「ごめんな」
「ううん。全然」
私はブルブルと首を振る。
だって、圭吾と二人だけの時間が過ごせるのだから、寧ろ嬉しいくらいだ。
こんなデートみないなこと、
もう叶わないと思っていたから。
どうか今だけは、圭吾を恋人だと思うことを許して欲しいな。
圭吾とワインで乾杯しながら、私はそんなことを考えていた。
そして、楽しい時間はあっという間に過ぎていき、テーブルに紅茶とデザートが並んだ頃、
お友達から『そろそろ着く』と連絡が入った。
一気に夢から覚めてしまったような気分だった。
ここにお見合い相手が到着したら、私はその人を想わなければいけないのだから。
そんな中、ピアノの生演奏が始まった。
タン、タン…タンタンタン~~
ショパンの『別れの曲』だ。
よりにもよって、何でこんなタイミングでと思う。
切ないメロディーが耳に響き、胸が締め付けられる。
昔、ピアノの発表会で弾いたことがあるけれど、これほどまでにこの曲を『悲しい』と感じたことなんてなかった。
ダメだ。
油断すると涙がこぼれ落ちそうになる。
私はピアノの方に顔を向け、必死に堪えていた。
すると、
「失礼致します。お連れ様がご到着でございます」
と、ボーイの声がした。
ハッと振り向くと、見覚えのある男性が「お待たせ」と言って笑っていた。