それでもあなたを愛してる
「大丈夫?」
エレベーターの中で、西島さんが私をのぞき込む。
「大丈夫です」
うん。
これくらい平気だ。
イチイチ傷ついていたら身がもたない。
私は自分にそう言い聞かせ顔を上げた。
「よし、佐奈ちゃん。いい子だ。今日の打ち合わせの後、美味しいものでも食べて帰ろうね」
西島さんは私の頭を撫でながら、優しく笑ってくれた。
そうだ。
もういい加減、圭吾のことなんて忘れなきゃ。
私は彼と生きていくと決めたのだから。
私は笑顔を作り、力強く「はい」と答えた。
……
「お父さん」
「おう……佐奈か?」
「具合はどう?」
「ああ。今日はだいぶいいよ」
病室に入り声をかけると、父はゆっくりとベッドから起きあがった。
「こんにちは。西島です」
少し遅れて、西島さんが病室へと入ってきた。
「おー。待っていたよ、光輝くん」
西島さんを見た父は、顔をぱあっと明るくした。
「はい。実は今日は大事なご報告がありまして」
「ああ、聞いているよ。佐奈をもらってくれるんだってな。ありがとう、光輝くん。これで私もようやく安心してあの世にいけるよ。こんな世間知らずな娘だけど、どうか佐奈を幸せにしてやってくれ」
西島さんの手を握り、父は涙ぐむ。
「はい。必ず佐奈さんのことを幸せにします。ですが、お父さんにはまだまだお元気でいて頂かないと困ります。婚約パーティーに結婚式、そして孫の誕生まで…しっかりと見届けて頂かないと」
「ああ、ああ、そうだな。孫の顔を見るまではくたばれないな」
父は目を赤くしながら、嬉しそうに何度も頷いていた。
そんな父の姿を見て、これで良かったのだと心からそう思った。