それでもあなたを愛してる

「佐奈。シャンプーの匂いするけど……どこかでシャワーでも浴びてきた?」

圭吾はちょうど私のこめかみの当たりでボソリと呟いた。

「うん。浴びてきたよ。今日は婚約パーティーの打ち合わせの後、光輝さんとホテルの部屋にも行ったからね」

こんな言い方をしたのは、噴水に落ちたことを知られたくなかったこともあるけれど、圭吾への「当てつけ」の気持ちもあった。

こんなことをしたって何の意味もないのに。
いつまでも引きづる自分に嫌気がさす。


「そうか…。もう……光輝と」

圭吾は視線を床へと落とし、小さく呟いた。

「何よ。悪い?」

「いや……。あいつなら、きっと佐奈を幸せにしてくれるはずだよ」

顔を上げた圭吾はにっこりと微笑んでいた。
ズキンと胸に痛みが走る。

「そんなの……圭吾に言われなくたって分かってるから!」

私はヒステリックに声を上げると、そのまま自分の部屋へと駆け込んだのだった。


………


翌朝、リビングへ降りると、圭吾の姿は既になく、朝食と一緒にメモが置かれていた。

“仕事に行ってきます。外出するときは西澤さんに連絡するように。腰は完治したそうなので”

私はテーブルにすわり、圭吾の作ってくれたサンドイッチを食べながら、深くため息をついた。

実はあの後、圭吾が部屋へとやって来て、こんなことを言ったのだ。

『今度の婚約パーティーが終わったら、佐奈は光輝のマンションで暮らしなよ。光輝には俺から伝えておくから』

えっと驚く私に、圭吾はこう続けた。

『俺もそろそろ会社を辞めて、海外で仕事を始めたいし。佐奈だって、早くあいつと住みたいだろ?』

もう西島さんとの関係は、深いものになったのだから構わないだろと、言わんばかりの発言。

実際はキスだってしていないのにと焦る。

『そんな……いきなり光輝さんと住むなんて無理だよ』と、慌てて首を振ったのだけど。

『大丈夫だよ、佐奈。あいつだって家事は一通りできるし、料理もプロ並みにうまいから。大学の頃、俺と一緒にサクラージュホテルの厨房でバイトしてたんだよ。まあ、不安なら昼間だけ家政婦に来てもらったっていいんだし。佐奈が何もできなくたって、何とでもなるから。そんなに心配することないよ」

と、圭吾からは、こんな風に励まされてしまった。

こんなことなら、あんな誤解されるような言い方なんてするんじゃなかったと、今になって後悔する。

はあ…とため息をついていると、久しぶりに万里ちゃんから電話がかかってきた。






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