それでもあなたを愛してる
………
「佐奈ちゃ~ん! こっちこっち」
駅の改札を出ると、万里ちゃんが私に向かって、手を大きく振ってきた。
私は手を振り返し、彼女のもとへと急ぐ。
「万里ちゃん、お待たせしてごめんね」
「ううん、私も今来たとこだから。それより、佐奈ちゃん、やったじゃない! 電車デビューできたね」
エライ、エライと誉めてくれる万里ちゃんに、私はにっこりと頷いた。
「うん。万里ちゃんのおかげだよ。ありがとね」
そう。
私が電車で来れたのは、事前に万里ちゃんがレクチャーしてくれたおかげなのだ。
「いえいえ。どういたしまして。じゃあ、そろそろ行こっか。すぐそこのビルだから」
「うん」
私達は大通りに向かって歩き出した。
今日、万里ちゃんが誘ってくれたのは、期間限定の初心者向け料理教室だった。
実は万里ちゃんと一緒に通う筈だったお友達が、インフルエンザにかかってしまったらしく。
『佐奈ちゃん、どうかな?』と声をかけてもらい、急遽参加させてもらうことになった。
包丁もろくに握れない私が、たった一週間でどうにかなるとは思えなかったけれど。
さすがに今のレベルでは、西島さんにも申し訳ないし。
それに……。
婚約パーティーの前日は圭吾の『誕生日』だから。
どの道最後になるのなら、圭吾に手料理でもプレゼントして、笑顔でサヨナラしたいと思ってしまった。
結局、何だかんだ言いながら、私は圭吾を嫌いになんてなれなかったのだ。
「あれ? 佐奈ちゃん、携帯鳴ってない?」
ふと足を止めて、万里ちゃんが呟いた。
「あ、ホントだ」
私は慌ててバッグから携帯を取り出した。
『もしもし?』
『佐奈、何でそんな場所にいるんだ?』
電話に出た途端、圭吾の焦った声が聞こえてきた。
『あ、えっと…万里ちゃんから料理教室に誘われてね』
『なら、西澤さんにお願いすれば良かったのに。もう大丈夫だってメモに書いておいただろ?』
『違うの。私ね……ちゃんと一人で来たかったの。できないことをできるようにしたくって』
『……そっか。今、お友達と一緒?』
『そう』
『ちょっと代わってくれる?』
『え? あ…うん』
電話を代わってくれた万里ちゃんは、圭吾と少し会話をした後、圭吾の携帯番号を控えさせられていた。
「何か…ごめんね」
「ううん。でも、真崎さんって、佐奈ちゃんのことがよっぽど大事なんだね。すごく心配してたよ」
「それは私の身に何かあったら自分が困るからだよ」
自分で言っていて、ちょっと虚しくなったけれど。
これが、圭吾が私に構う本当の理由なのだから仕方がない。
けれど、
「そうかな…それだけとは思えなかったけどな」
万里ちゃんはそう呟きながら、私の言葉に首を傾げていた。