それでもあなたを愛してる

ホテルを出た後、圭吾は私を車に乗せて大学まで送ってくれた。

車は人気のない裏門の少し手前で停車する。

圭吾がここで降ろしてくれるのは、他の学生達に私が何か言われないようにという配慮だった。


「じゃあ、頑張っといで。佐奈」

圭吾は運転席から優しく笑う。

「うん。送ってくれてありがとう。大好きだよ、圭吾」

にっこり笑うと、圭吾が強い力で抱きしめてきた。

「ごめんね、佐奈…やっぱり、最後にキスさせて」

コクリと黙って頷くと、唇に柔らかいものが触れた。

「佐奈…愛してる」

ドキッとするような切ない声が、耳もとに響いた。

圭吾は再びギュッと私を抱きしめると、名残惜しそうにゆっくりと離れた。

「じゃあ、佐奈。今度こそ、いっておいで」

「うん。いってきます」

私は笑顔で車を降りた。

まさかこれが、圭吾との最後のキスになるなんて……。
この時の私は、想像さえもしていなかった。


………


教室に着くと、殆ど席は埋まっていた。
私は空いている最前列の席へと向かう。

私には親しいと言える友人がいない。
一緒に学食を食べたりお喋りをしたり…。
そんなことができる女友達が、一人もいないのだ。

それでも入学した当初は、仲良くしてくれた子達もいた。
けれど、ある日、こんな影口を聞いてしまったのだ。

『電車に乗ったことがないなんて信じられないよね』

『スマホは有害だからって今だにガラ携? どんだけ箱入りなのよ』

『社長令嬢だからと思って期待したけど、やっぱ世間知らずのお嬢様は付き合い辛いわ。大してうちらにメリットもないしさ、話してても疲れるだけよね、あの子』

結局、私は大学では誰ともつき合わず、一人でいることに決めたのだった。

サークルや部活にも入っていないから、講義の後はまっすぐに帰宅。

圭吾と会えない平日は、そんな退屈な日々を送っていた。







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