それでもあなたを愛してる
料理教室の後、父の病院にも顔を出して帰ってきた。
「おかえり、佐奈……一人で帰って来れたんだな。頑張ったな」
玄関で私を抱き寄せ、ホッとした声で呟く圭吾。
まるで初めてお使いをしてきた子供になった気分だ。
「あのね、私だってやろうと思えば何だってできるんだよ。ほら、パスモだって作ってきたんだから。まあ…後ろに並んでいた人に、少しだけ助けてもらっちゃったけどね」
なんて言いながら、私は出来たてホヤホヤのパスモを圭吾に見せた。
すると、
「この手、どうした?」
圭吾は絆創膏の巻かれた私の指を掴み、真剣な顔で私を見た。
「あ~……うん。ちょっと包丁でやっちゃって。でも、大した傷じゃないから」
何だかバツが悪くて、すぐに手を引っ込めたのだけど。
「佐奈。ちょっとこっち来て」
圭吾に腕を引かれ、キッチンへと連れて来られた。
「明日も料理教室あるんだろ?」
「うん」
「俺が見ててやるから、このキュウリ切ってごらん」
私はキュウリの乗ったまな板の前に立たされて、包丁を握らされた。
「分かった」
コクリと頷き、いざ切ろうとしたその瞬間、圭吾が声を上げた。
「待った! 左手は丸めないと。こうだよ」
圭吾が後ろから私の手を握る。
二人羽織のような体勢でピッタリと背中が密接し、一気に私の鼓動が早まった。
「ほら、佐奈。ちゃんと集中して」
「あ、うん」
そう言われても、顔が近すぎて全然集中できない。
圭吾は気づいてないのかな?
私達が今、恋人同士の距離になっていることに。
密かに考えながら、私は顔を熱くしていたのだった。