それでもあなたを愛してる

それから、一週間。
圭吾は料理だけじゃなく、私に色んなことを教えてくれた。

「へえ~。昨日はアイロンがけしたんだあ。頑張ってるね」

料理教室の最終日、万里ちゃんは私のハンカチを見ながら誉めてくれた。

「私ね…父からアイロンの半径1メートルには近づくなって言われて育ったの。だから、ものすごく恐怖心があったんだけど、圭吾と一緒にやってたらコツを掴んできて」

私が夢中になって話していると、万里ちゃんがポツリと呟いた。

「一緒にアイロンってどうやるの? あっ、後ろから?」

「え? あ……うん」

ポッと顔が熱くなった。
そう。
圭吾は私を後ろから包みこむような体勢で、アイロンと私の手を握り教えてくれたのだ。

この一週間、ずっとそんなことばかりだった。
まるで新婚夫婦のように。

でも、そんな夢のような時間も今日で終わる。
今日は圭吾の誕生日。

泣いても笑っても、本当にこれで圭吾とはお別れだ。

そして、明日の婚約パーティーが終われば、私は西島さんと一緒に暮らすことになる。

全く実感なんて沸かないけれど。
そんな現実がすぐそこまで迫っていた。


「皆さん、今日までお疲れさまでした。気をつけてお帰りくださいね」

料理教室か終わり、万里ちゃんと一緒に駅へと向かった。

「あ、そうだ。私、ケーキ屋さんに寄っていかなくちゃ」

駅ビルに入っているケーキ屋さんに、圭吾のバースデーケーキを予約しておいたのだ。

小さいけれど、ちゃんと圭吾の名前入りのプレートだってお願いしてある。

「うん。真崎さん、きっと喜ぶね」

万里ちゃんは私を見つめながら、優しく微笑んだ。


………


「それじゃ、佐奈ちゃん、ここでね」

「うん。また大学でね」

改札をくぐったところで、万里ちゃんとはお別れだ。

「あ、そうだ。婚約おめでとう。パーティーの写真、今度見せてね」

「うん。分かった」

「で……今夜は、悔いのないように過ごしてね」

万里ちゃんは、私が手にしているケーキの箱をチラリと見てそう言った。

「うん。ありがとう」

「じゃあね」

「うん。じゃあ」

反対方面のプラットフォーム。
笑顔で階段を降りながら、お互いに手を振り合った。

と、その時だった。

突然背中を押されて、足がズルッと滑った。
「キャ!!」と咄嗟に手すりを掴み、何とか踏み止まったけれど、ケーキの箱だけ階段の下へと落ちてしまった。










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