それでもあなたを愛してる
「あっ、ケーキ!」
私は慌てて階段を駆け下りる。
「あ~やっぱり…ダメか」
グシャンと崩れてしまったケーキを見つめ、ため息をつく。
それにしても、誰がこんなことを?
辺りをキョロキョロと見回してみたけれど、それらしき人物は見当たらなかった。
この前の噴水の時と同じだ。
ゾクッと背中が凍りついた。
「ちょっと佐奈ちゃん、大丈夫だった!? ケガない?」
すぐに万里ちゃんが飛んできてくれた。
「うん。私は大丈夫だけど、ケーキがね」
「ケーキなんて、この際仕方ないよ! 佐奈ちゃん、大ケガするところだったんだよ。一体誰がこんな酷いこと」
泣きそうな顔で万里ちゃんはそう言った。
手も何だか震えている。
「だ、大丈夫だよ。急いでる人にぶつかっちゃっただけだから」
あまり心配かけないようにそう言うと、万里ちゃんは深刻そうな表情で首を左右に振った。
「ううん。違うよ。佐奈ちゃんの後ろにいた女の人が、佐奈ちゃんの背中を突き飛ばしたんだよ。私、見てたんだから。ねえ、佐奈ちゃん。一緒に警察に行こう」
「あ……うん。でも」
私には何となく犯人の心辺りがあった。
きっと、西島さんと結婚する私を妬んでいるサクラージュホテルの従業員なのではないかと。
でも、今はあまり大ごとにはしたくなかった。
明日の婚約パーティーは父も車椅子で参加する。
そんな時に犯人探しなんかして、父に余計な心配をかけたくなかったのだ。
「万里ちゃん。心配かけてごめんね。でも、ホントに大丈夫だよ。帰ったら圭吾に相談してみるから」
私が頑なにそう言うと、万里ちゃんは「分かった」といって立ち上がった。
「その代わり、家までは送らせてね。何かあったら私が後悔するから」
「うん。ありがとう」
万里ちゃんの気持ちを有り難く受け取り、私は万里ちゃんに付き添われて自宅へと帰ったのだった。