それでもあなたを愛してる
佐奈は筋金入りの『箱入り』だった。
どこへ行くにも運転手がつき、身の回りのことは全て家政婦がやってしまう。
だから、佐奈一人では電車にも乗れないし、お湯ひとつ沸かせない。
大学生になっても、スマホの使用も許可されず、代わりにGPSつきのガラ携を持たされていた。
こうして父親から危険な要素を遠ざけられてきた佐奈は、どんどん『世間知らずのお嬢様』になっていった。
そんな佐奈に、少し派手目な女の子達が近づいてきた。
サークルを諦めた佐奈は『お友達ができた』と喜んでいたけれど、俺はちょっと気がかりだった。
そして、予感は的中する。
『あのね、圭吾。お金持ちの男の子を集めてくれって言われたんだけど…どうしたらいいのかな』
佐奈には自覚がないようだったけれど、社長令嬢の立場を利用されているのは一目瞭然だった。
よりにもよって合コンの幹事とは…。
カチンときた俺は佐奈にこう言った。
『佐奈。彼氏に怒られるからごめんねって断りな』
佐奈は『分かった』と笑顔で頷いてくれたけど。
翌日、渋谷で迷子になった。
『圭吾…ごめんね…お友達とはぐれちゃって……皆に電話かけたけど……誰も出てくれなくってね』
佐奈は電話で助けを求めてきた。
幹事を断ったから、機嫌を損ねたのかもしれないと泣きながら。
『佐奈!』
小さな公園に座り込んでいた佐奈を見つけ、彼女を思いきり抱きしめた。
『圭吾~~怖かった』
俺の胸の中でなきじゃくる佐奈。
『ヨシヨシ、怖かったよな。もう大丈夫だからな』
この事件がきっかけとなり、佐奈は彼女達から離れたけれど。
落ち込む彼女が可哀想で、俺はついこんな言葉をかけてしまった。
『佐奈。もう無理して友達作る必要なんてないよ。佐奈には俺がいるだろ? 俺がずっと佐奈のそばにいてやるからな』
俺はこの時の言葉を、後から激しく後悔することになるのだった。