それでもあなたを愛してる
季節は巡り、佐奈と出会ってから三度目の冬を迎えた。
佐奈の誕生日を1ケ月後に控え、俺は大学時代の親友、西島光輝の元を訪れていた。
『婚約パーティーの日取りはいつ頃がいいんだ?』
『佐奈の誕生日が2月だから、できれば3月中がいい』
光輝は都内にある高級ホテルの御曹司。
自らも専務を務める彼に、事情は全て打ち明けてあった。
『分かった。手配しとくよ。でも、そんなに悪いのか? 彼女の父親』
『ああ…。とうとう医者から余命宣告されたよ。長くて半年だそうだ。せめて、生きてるうちに佐奈の花嫁姿を見せてあげたいんだけどな』
そう。
もうこの頃には、社長の病状も思わしくなく、会社の方も俺が少しずつ引き継いでいたのだ。
『そうか…。ところで、おまえもどっか体調悪いんじゃないか? 顔色が良くないぞ』
光輝は心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
確かに光輝の言うとおり、俺も少し前から、原因不明の目まいや頭痛に度々襲われるようになっていた。
『ああ…。この所、忙しかったからからな。疲れかな』
『ちゃんと病院に行った方がいいぞ。おまえに何かあったら、それこそ彼女がひとりになっちゃうんだからな』
『そうだよな』
光輝の言葉がなかったら、俺は病院には行っていなかったかもしれない。
その翌日、俺は脳のCT検査を受けた。
そして、医師から告げられたのは…。
『脳腫瘍がありますね。良性なんですが手術が極めて難しい場所にあります。申し上げ憎いのですが、このまま進行すれば、半年後には末期の状態になるでしょう。手術にかけるしかないのですが……こういった症例を引き受けられる外科医がいないんです。とりあえず薬で治療……』
途中から、医者の言葉が頭に入ってこなかった。
“佐奈が一人になってしまう”
ただそれだけを考えていた。