それでもあなたを愛してる

「おかえり、佐奈。おまえに大事な話があるんだが……。ちょっとこっちに来てくれるか」

家に帰ると、父はリビングのソファーから、早速私を呼び止めた。

「うん」

私はちょっとワクワクしながら、父の正面に腰かけた。

「実は真崎のことなんだがな」

「うん。なあに? お父さん」

私が明るく返事を返すと。
父は堅い表情を浮かべて、深呼吸した。

そして、突然、私に頭を下げた。

「すまない! 彼はおまえの本当の恋人じゃないんだ」

父の言葉に、私はしばらくフリーズする。    

今、“本当の恋人じゃない”って言った?
いやいや、私の聞き間違えだよね?

「えっと…。今、なんて言ったの? よく聞こえなかった」

もう一度聞いてみる。

「ああ…だから。真崎はおまえの本当の恋人ではないって言ったんだ」

どうやら聞き間違いではなかったようだ。

「やだ、お父さん。何言い出すのよ。私と圭吾はちゃんと恋人同士だよ。もう二年も付き合ってるんだから」

苦笑いを浮べ抗議する私に、
父はこんなことを言い出した。

「いや…実はな。二年前、お父さんが頼んだんだよ。佐奈の恋人役を引き受けてくれないかって。佐奈のハタチの誕生日までという約束で、ちゃんと報酬も約束した」 

「は? え……どういうこと?」

父の言葉を理解できず、
私はパニックになった。

「佐奈はお母さんを亡くしてから、ずっとふさぎ込んでいただろ? でも、真崎に出会ってからの佐奈は、表情がみるみると明るくなっていった。ああ、この子は真崎に惚れたんだなと思った。だから、つい、親心で彼にニセの恋人役を頼んでしまったんだ。佐奈の笑顔を取り戻したい一心でな」

「そ、そんな……」

あまりのショックに言葉が出なかった。





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