それでもあなたを愛してる
 
そして、追い打ちをかけるように体調も悪化する。
頭痛とめまいが頻繁に起こるようになり、痛み止めもあまり効かなくなった。

見合いの日から二日間。
俺は佐奈を避け続けた。

まあ…つまらない嫉妬をしていたことも多少あったけれど、何より自分の身に起こっている異変を、佐奈に感づかれたくなかったのだ。

朝はタクシーを家の裏に呼んで会社へと向う。
いつ起こるか分からない頭痛と目まい。
とても車なんて運転できるような状況ではなかった。

幸い佐奈は春休み中で車での送迎は必要なかったけれど、問題は社長の病院だった。

俺が忙しそうだからと病院に行くことを我慢している様子の佐奈も、そろそろ限界だろう。

婚約のことは俺からは報告しているけれど、社長だって佐奈本人の口から聞きたいだろうし。

さて、どうするか。
まあ、光輝しかいないのだが。

ズキンと胸に痛みは走るが、もう嫉妬などしてる場合ではない。

俺はタクシーの中で光輝に電話をかけた。

“もしもし。圭吾か?”

“悪い…今、大丈夫か?”

“ああ、大丈夫だけど、どうしたんだ? もしかして具合悪いのか?”

いつも冷静な光輝が慌てた声を出す。
こうして心配してくれる友人に対して、身勝手な嫉妬心を抱いている自分が本当に情けなくなる。

“いや。実は頼みがあってさ。悪いんだけど、佐奈と一緒に社長のところに行って、婚約の報告をしてきてくれないかな”

“あ~そうだよな。分かったよ。明日にでも行ってくる”

“助かるよ。それと……例の件は大丈夫そうか?”

“ああ、株式購入の件なら問題ないぞ。そっちの取締役会までには何とかなりそうだ”

“そうか、良かった。じゃあ、そういうことで宜しくな”

“ああ。任せとけ”

ホッとしながら、光輝との通話を終えた。

全て解決だ。
これでいい。

株式購入の件も問題ないならば、この先、光輝以外の第三者に会社を乗っ取られる心配もないだろう。

実は、うちの会社の筆頭株主は江波社長だ。
上場企業で社長自らが筆頭株主というのは珍しいケースだが、とりあえず代表取締役の決定権は社長にある。
仮に社長が亡くなったとしても、その権利は相続人である佐奈が引き継ぐことにはなっているが。

ハッキリいって安心はできない。
筆頭株主とは言っても、持株比率の差が僅かだからだ。

他の企業から買収をかけられてしまうリスクだってあるし、内部からクーデターをかけられて佐奈の持っている株式を会社の資産で買い取られてしまうという可能性だって捨てきれない。


そういった事態を防ぐ為に、光輝に『サクラージュホテル』名義での株式購入をお願いしておいたのだ。

こうして、俺が佐奈の前から消える準備は整いつつあった。




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