それでもあなたを愛してる
『決算報告のデータも全部このファイルに入ってるから。もし分からないことがあったら秘書の伊藤に聞いて』
翌日、俺は光輝を会社に呼んで、最後の引き継ぎをしていた。正式な社長就任はもう少し先だけど、うちの重役達には根回しして、取締役会を前に光輝に仕事を引き継くことを承諾してもらったのだ。
『ああ、だいたい分かったよ。後のことは安心して俺に任せろ。佐奈ちゃんのこともおまえの分まで大事にするから』
光輝の言葉に、醜い嫉妬の感情が再び俺を支配する。
佐奈のことはずっと触れないようにしていたのに。
『そうだよな…。佐奈もおまえには心も体も許したみたいだし、もう、何も心配いらないよな』
思わず嫌みたっぷりに言ってしまった。
すると、光輝は驚いたような顔で俺を見た。
『圭吾。おまえ…なんか誤解してるだろ? 俺はおまえを裏切るようなことはしてないよ。佐奈ちゃんからも聞いてると思うけど、あの夜は佐奈ちゃんが噴水に落ちて』
『いいんだ、光輝。ごめん。俺が悪かった。おまえには感謝してるから』
『いや、本当にあの夜は何もない。佐奈ちゃんの気持ちはまだおまえにあるんだから』
『ごめん。もうその話はしたくないんだ。佐奈のことはおまえに任せたから…遠慮なく佐奈と幸せになってくれ』
俺は光輝の言葉に耳を貸さなかった。
光輝が俺に気を遣って言っているのかと思ったからだ。
その後、急に仕事が入ってしまい、光輝とはそのままになってしまった。
そして、夕方、
会社を出ようとした時に、体に異変が起こった。
呼吸が苦しくなり、立っていられなくなったのだ。
体中から汗が噴き出してきて、視界が真っ暗になった。
エレベーターの前でうずくまっていると、伊藤が駈けつけてきた。
『真崎くん、どうしたの!?』
朦朧とする意識の中で、俺は伊藤の腕を掴んだ。
多分、もう
このまま佐奈のところには戻れない気がしたから。
『光輝……西島光輝に…連絡…頼む…佐奈を…迎えに行くように』
それが俺の記憶に残っている最後の言葉だった。