それでもあなたを愛してる
ふと目覚めると、俺は病院のベッドにいた。
カーテンからは日の光が差し込んでいて、壁にかけられた時計は8時を指していた。
手には点滴がつけられて、額には冷却シートが貼られてある。
俺は会社で意識を失い、病院に運ばれたのだろうけれど。
まだ生きてたのか…。
ゆっくりとベッドから起きあがると、ドアがノックされ伊藤がひょこっと顔を出した。
『おはよう、真崎くん。具合はどう?』
『ああ。大丈夫だよ』
『そう。良かった。昨日は真崎くん、薬の副作用で高熱が出てたみたい。少し早いけどこのまま入院になったわ』
伊藤の言葉を聞いて、ただの熱だったのかと苦笑する。
あの時は、てっきり死ぬのかと思ってしまったから。
『あっ…手続きとかは伊藤がやってくれたのか? 悪かったな。迷惑かけてほんとに申し訳ない』
『ううん。手続きの方は、昨夜西島さんが来てくれて彼が全部やってくれたの。保証人も海外にいるお姉さんの代わりに自分がなるって言って』
『そうか、光輝が』
そこでハッとする。
『佐奈は? 佐奈はどうなった? 光輝は迎えに行ってくれたのか?』
身を乗り出して伊藤の腕を掴むと、彼女は俺を宥めるようにこう言った。
『落ち着いて、真崎くん。お嬢様のことなら大丈夫よ。ちゃんと西島さんが迎えに行ってくれたから』
彼女の言葉にホッと肩を撫で下ろす。
『でも…私、お嬢様を傷つけてしまったわ。西島さんが帰った後、真崎くんの携帯にお嬢様から電話がかかってきてね、うっかりとってしまったの。西島さんとの事前の打ち合わせでは、真崎くんはニューヨークに行くってことにしてたんだけど、咄嗟に“圭吾はシャワー中だ”って答えちゃって…ごめんね、真崎くん』
『そっか…。うん、分かったよ。大丈夫。もう佐奈の前に顔を出すつもりもないし、佐奈には光輝がついてるから』
本当は今日の婚約パーティーに出て、彼女の幸せを見届けるつもりだったけれど。
これでちょうど良かったのかもしれない。
『じゃあ、今日は社長のこと宜しくな。それと…婚約指輪は会社の俺の引き出しに入ってるから、悪いけど今日だけ嵌めといてくれる?』
『分かった。あっ…終わったらどうする? 病院に持って来ればいい?』
『捨てちゃっていいよ。質屋に持っていってくれてもいいし…もういらないから伊藤の好きにして』
伊藤は目に涙を溜めながら、黙ってコクリと頷いた。
そして、
『真崎くん……私がちゃんとあなたのこと看取るからね』
そんな言葉を呟いて、静かに病室から出て行った。