それでもあなたを愛してる
その後、早速西島さんの車で区役所に向かい、婚姻届を提出した。
これで、私と圭吾は正真正銘の夫婦となった。
この先に厳しい現実があることは分かっていたけれど、好きな人の奥さんになれて、私は凄く幸せだった。
「良かったね。おめでとう」
「はい。ありがとうございます」
運転席の西島さんに笑顔を返す。
「あっ、もしお時間大丈夫なら、父の病院の後、ジュエリーショップに寄ってもらってもいいですか? 結婚指輪を買いたいんです」
早く圭吾とお揃いのリングをつけたくて、ちょっと我が儘を言ってしまった。
「了解。うん、早い方がいいね。刻印とか入れてもらうのに日数もかかるだろうし。じゃあ、その婚約指輪と同じ店がいいかな? ティファニーでしょ?」
西島さんは私の左手の指輪を見ながらそう言った。
「はい。そうです。お願いします」
ホッとしていると、西島さんはクスリと笑って、今度は私の胸もとのネックレスに視線を向けた。
「それにしても、あいつってティファニー好きだよね」
「あ、はい、これもそうですね。私の19歳の誕生日プレゼントなんです」
私は思い出しながら、ちょっと涙ぐんだ。
“佐奈が幸せになれますように”
これは、圭吾のそんな願いのこめられたシルバーアクセサリーだったから。
「私も……圭吾のこと幸せにしてあげられますかね」
思わず呟くと、西島さんからこんな言葉が返ってきた。
「あいつの幸せは、佐奈ちゃんが幸せになることだからね。辛いと思うけど、あいつの前でたくさん笑ってあげてね」
「分かりました」
涙をふきながら、私は大きく頷いた。
…………
「今日はありがとうございました」
病院に送り届けてくれた西島さんの車を見送って、私は笑顔で圭吾の病室へと向かった。
もう6時だから、圭吾は夕食の時間だよね。
私は売店へと引き返し、自分の分のお弁当を買った。
もう一週間近く、この売店にはお世話になっている。
圭吾が面会謝絶の間もずっと病院に泊まっていたからだ。
夜も待合室のソファーで寝ていたから、さすがに腰が痛い。
でも、今日からは圭吾の個室にベットを作ってもらえることになっているから、ちょっと楽しみだった。
私は少し浮かれながら病室のドアを開けた。
“佐奈、おかえり”と、圭吾は笑って迎えてくれるものとばかり思っていたけれど。
現実はそんなに甘くなかった。
「圭吾!!」
お弁当の袋がバサッと落ちた。
目の前の床に圭吾が倒れていたからだ。
意識はあるけれど、床には圭吾の嘔吐したものが散らばっていた。
「大丈夫!? 今、ナースコールするからね!」
ベッドの脇にあるボタンを急いで押してから、圭吾の体をそっと起こした。
「ごめんな……佐奈。吐きに行こうとして……間に合わなかった。足が……もつれて。ごめん…汚れちゃうから…佐奈は俺から離れてて」
悲しそうな顔で圭吾が言う。
「汚れたっていいよ」
私は看護師さんがくるまで、圭吾の体を抱きしめていた。