それでもあなたを愛してる
「お客さん…。早く行き先言ってもらえないと、こっちも困るんですがね」
「すっ、すいません。何て言う駅だったかな…えっと」
電車に乗れない私は、駅でタクシーを捕まえたのだけど、行き先を上手く説明できず、運転手さんを苛立たせていた。
連れて行ってもらったことなら何度もあるのだけれど、自分一人で圭吾のマンションへは行ったことがない。
「住所も分かんないの?」
「あ…住所」
私は手帳を出してペラペラとページをめくった。
確か圭吾が自分のマンションの住所を書いておいてくれたはず。
「あった! ここです! この住所に行って下さい!」
こうして、何とかタクシーは走り出した。
「お客さん、着きましたよ。ここでいいですか?」
しばらくして、タクシーは見覚えのあるマンションの前に止まった。
良かった。
間違いなく、ここは圭吾のマンションだ。
「ありがとうございます」
お礼を言ってそのまま降りようとすると、運転手さんが突然怒鳴り声を上げた。
「ちょっと、あんた! お金払わんと!!」
ハッとして、振り返る。
「あっ…そっか、すいません! つい、いつものクセで」
運転手さんはジロリと私を睨みつける。
「あんた、いつも乗り逃げしてんじゃないだろうな?」
「いえ、まさか…そんなことしてません」
プルプルと首を横に振る。
「あっ、そ。じゃあ、早く払ってよ。6400円」
「え! 6400円!?」
思わず声を上げてしまった。
まさか、タクシーがそんなに高い乗り物だとは思わなかったから。
どうしよう。
お財布は持ってきてるけど、そんなに入っていないはず。
慌ててお財布の中身を確認する。
やっぱり…。
「あの…ごめんなさい。今、3000円しか持ってなくて」
「は? あんた、やっぱり初めから乗り逃げする気だったな! ふざけんなよ! 警察に通報するからな」
運転手さんは目をつり上げて怒り出した。
どうしよう。
警察だなんて…。
あ…圭吾に借りてくればいいんだ!
そう思いついた私は、「ちょっと待ってて下さい」と声をかけてタクシーを降りた。
すると、
「おまえ!何逃げてんだ!!」
運転手さんが血相を変えながら追い掛けてきて、私の腕をガシッと掴んだ。
「キャ!! 離して!」
あまりの力に、私は悲鳴を上げた。