それでもあなたを愛してる
“歩行障害が出たんだと思います。良性なので手術さえできれば完治できるのですが……お力になれず申し訳ありません”
この日、私は妻として医者からの説明を受けた。
手術をすれば治るけれど手術できる医者がいない。
なんて酷い話なんだろう。
こんな残酷な宣告を、圭吾は今まで一人で聞いていたのかと思うと胸が苦しくなる。
ショックを受けながら病室に戻ると、圭吾はボンヤリと天井を見つめていた。
「圭吾」
呼びかけると、圭吾はゆっくりと私を見た。
「佐奈…」
「ねえ、圭吾。今度から吐きたくなったら私に言ってね。看護師さんからバケツもらってきたから」
新聞紙の入ったバケツを見せると、圭吾は複雑な表情を浮かべた。
「佐奈…ごめん。やっぱり俺達」
私は慌てて首を横に振る。
「別れないよ。私…ちゃんと幸せだもん。圭吾の奥さんになれてほんとに幸せなんだから」
涙は我慢した。
幸せだって伝えたかったから、にっこり笑ってみせた。
「佐奈…」
圭吾の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「大好きだからね……圭吾」
私は圭吾の唇に自分の唇を重ねた。
初めは躊躇いながらも、圭吾は私のキスを受け入れた。
長いキスの後、圭吾は私を抱きしめて言う。
「佐奈…愛してる。愛してるからな、佐奈」
「うん…私も負けないくらい愛してるよ」
圭吾の胸の中でそう返す。
「いや、多分俺のが愛してるから」
「何言ってるの。私だって凄いんだから」
「俺なんてストーカーレベルだぞ」
二人でそんなことを言い合いながら、新婚一日目の夜を過ごしたのだった。