それでもあなたを愛してる
10
季節は巡り、再び冬が訪れた。
早いもので、もう一年が経つ。
あれから私は、コンシェルジュ付きのマンションに移り、一人で暮らしている。
実家は私には広すぎるので、人に貸すことにしたのだ。
手続きは全て西島さんがやってくれた。
父は半年前に亡くなってしまったけれど、西澤さんや万里ちゃんにも助けてもらいながら、何とか頑張れている。
これも、私を一人でも生きていけるようにしてくれた圭吾のおかげだった。
大学の帰り道、私はお花屋さんに立ち寄った。
「真崎さんに持って行ってあげるの?」
「うん。今日は圭吾の誕生日だから」
万里ちゃんににっこりと返す。
そして、私はバラの花束を抱えて、圭吾の眠るあの場所へと向かったのだった。
……
「圭吾。お誕生日おめでとう。今日で28歳だね」
病室のベッドに眠る圭吾は、あれから一度も目を覚まさない。
手術自体は成功したのだけど、植物状態となってしまったのだ。
それでも、私は奇跡が起きるのを待っていた。
“必ず佐奈のもとに戻ってくるよ。だから、いい子にして待ってて”
圭吾がそう約束してくれたからだ。
ちゃんといい子にしてるよと圭吾の耳元で囁いて、唇にそっと口づけた。
温かい唇に触れると、圭吾が生きていることを実感できてホッとする。
髪だって、爪だってそうだ。
伸びてきたのを見ると凄く安心できるのだ。
ただ私が不器用なせいで、毎回切る度に前髪が金太郎のようになってしまうのだけど……圭吾は格好いいから大丈夫だよと眠っている圭吾に言い聞かせている。
「あっ…爪もだいぶ伸びてきたね」
圭吾の指を掴みながら、爪切りを当てたその瞬間、
「イテッ」と聞こえた気がした。
「あっ、ごめんね」と呟き、ハッとする。
え……今、誰が言ったの?
まさかね。
私はゆっくりと圭吾の方に顔を上げた。
「うそ!!!」
開いていた。
圭吾の目がパッチリと開いていたのだ!!
「圭吾!? 分かる? 私のこと分かる!?」
大声で問いかけると、圭吾は微かに頷いた。
「ちょ…ちょっと、待っててね、圭吾! 今、先生呼んでくるからね!」
私は心臓をバクバクさせながら、ナースステーションへと駆け込んだのだった。