それでもあなたを愛してる
その時だった。
「彼女を離してもらえますか!」
低い声と共に現れた圭吾が、運転手さんの手を掴み私から引き離した。
「圭吾!」
私は圭吾の背中にしがみついた。
「何だよ、あんた! その女はな、6400円を踏み倒して、乗り逃げしようとしたんだよ! 早く、こっちに引き渡せよ」
運転手さんが声を荒げてそう言うと、圭吾はズボンのポケットからお財布を出して、一万円札を渡した。
「お釣りは結構ですので」
運転手さんは圭吾からお金を受け取ると、チッと舌打ちをして何も言わずに立ち去って行った。
「ありがとう、圭吾」
私は圭吾の胸に抱きついた。
いつものように優しく抱きしめ返してくれると信じて。
けれど、そんな期待は裏切られ、圭吾は私の体をサッと引き離した。
「何しに来たの? 俺のこと社長から聞いてないの?」
そんな冷たい言葉と共に。
「聞いたよ。でも、やっぱり信じられなくて確かめにきたの。きっかけは父が頼んだからかもしれないけど、圭吾は私のことちゃんと愛してくれてたよね?」
祈るような気持ちで圭吾を見つめた。
けれど、
圭吾はバカにしたようにフッと笑った。
「やっぱり、佐奈は世間知らずのお嬢様だな。簡単に男に騙されちゃうんだから。全部、演技に決まってるだろ?」
「うそ…何でそんな嘘吐くの!」
「嘘じゃないよ。俺は報酬目当てで、お嬢様の恋人ごっこに付き合ってただけ。でも、悪いけど、これ以上は付き合えないんだよ。俺は結婚も控えてるし、独立して会社も立ち上げようと思ってる。だから、そろそろ俺のこと解放してくれないかな?」