それでもあなたを愛してる
その後、彼とお嬢様は結婚した。
お嬢様は未亡人になることを覚悟の上で、彼の妻になる道を選んだのだ。
一度、お見舞いに行った時、彼もお嬢様も幸せそうに笑っていた。
でも、二人には確実に別れが迫っているのだと思うと、凄く切なくなった。
それから、すぐのこと。
彼は腫瘍の摘出手術を受けることになった。
どうやら、アメリカの医療チームが彼の手術を引き受けてくれたということらしい。
私はこれで彼が助かるのだと喜んだ。
けれど、ホッとしたのも束の間、彼は手術の後に植物状態となってしまった。
それでも、周りの皆は彼が帰ってくることを信じていた。
『あいつが戻って来たときに、ちゃんと会社を引き渡せるように』と、西島社長は自分は仮の社長だと宣言し、養子縁組も断ってしまった。
江波社長は、自分が所有する会社の株式が全て彼に行くように手続きし、遺書に残した。
そして、お嬢様は…。
毎日、彼のそばから離れなかった。
そして、今日。
一年振りに彼は私達の前に姿を現し、完全なる復活を遂げたのだった。
『伊藤さん、よかったらこれ使って下さい』
給湯室でひとり泣いていると、後ろから声をかけられた。
振り向くと、一年後輩の今泉くんがタオルハンカチを手に立っていた。
『え? いや…でも』
『大丈夫ですよ。これ新品ですから…。きっと伊藤さんが号泣すると思って用意してきたんです』
『え?』
驚く私を見て、彼は真剣な顔でこう言った。
『いつも伊藤さんのこと見てました。真崎さんに恋する伊藤さんをいつか振り向かせようと思って…。真崎さんが意識を取り戻したら、告白しようと決めてました。お友達からでいいので、僕とお付き合いしてもらえませんか』
『え……ええ~~?』
思ってもみない展開に、あまり頭がついていかなかったけれど
『あ、ありがとう』
何だか心が温かくなった。
『じゃあ……今度、一緒にお花見でも行こっか』
彼のタオルハンカチで涙を拭った後、私は笑ってそう答えたのだった。