ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ2 【完】



「敬太ー、どうしたんだよ! あんなのに構うことないだろ! 早くしねぇとバスの時……」

突然、祐一郎の声が消える。

「…………」

胸騒ぎを感じて、振り返ると。

「動くな! 下手に動けばコイツを撃つぞ!」

獣も逃げだすような、その声。

「けぃ……」

祐一郎の背後で、白髪混じりの男が銃を構えていた。

……やられた。

視線が合うまで隠れなかったのは、俺たちを人気のない森に誘いこむため。

「アイツの所まで歩け、おら゛! お前はうしろを向くんだ」

男は銃口で祐一郎の背中を押す。

言われたとおりにすると、ほどなく視界の右端に、祐一郎が飛びこんできた。

言わんこっちゃない、と顔をしかめて。

「歩け! まっすぐ」

なおも背後で銃を構え、俺たちを誘導した。

右へ左へ、またまた右へ。

体内の方位磁針は音をあげ、来た道がすでにわからない。やがて、今にも崩れそうな古ぼけた山小屋が目に入った。

「そこだ。入れ!」

俺たちに滑りの悪い戸を開けさせると、生活感に溢れた光景が広がる。

積まれたインスタントラーメンに、綿が剥き出しのソファ。テーブルの上はひどく散らかっている。

床には、2リットルのペットボトルを切った、雨漏りの受け口。

見るからに、男のアジト。

「ひざまずけ!」

「「え!?」」

「そこにひざまずけ!」

――ゴトッ。

襟を下に引かれ、激しく膝を打ちつけた。

「手のひらを頭のうしろに組め!」

「クッ……」

もう、死を覚悟するしかない状況。

男はわざと足音を立てるようにして前へ回り、俺の顔をじっと見た。

「正直に答えれば、帰してやる。いいな?」

「…………」

否応なしに話しはじめると……やはり、彼女の名前が出てきた。君江だ。



 
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