ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ2 【完】
事件には、昼も夜もない。
加えて、部屋を間借りしての監視や、車の中での張り込み。
執念が犯人逮捕に結びつくと信じていた私は、かつて持てる時間のほとんどを刑事として費やしていた。
ヒゲは伸ばしっぱなしで髪もボサボサ。
いつもヨレヨレのスーツに、何日も履き続けた靴下。
いうまでもないが、女には一切縁がない。
だからこそ、全身全霊を“正義”とやらに注ぎこむことができた。
その甲斐あってか、県警内から私はこう呼ばれはじめる。
“迷宮の門番”
事件が迷宮入りするかどうか、最後の砦として立っているのが兵藤新八だと。
固いイメージを持たれた私だが、決して恋と呼ばれるモノをしてこなかったわけじゃない。
稀に署のデスクに帰ると、必ず熱いお茶を差しだしてくれる女性がいた。
坂下磨妃。となりの部署の若い新米刑事。
彼女の笑顔と労いの言葉には、いつも心の底から癒された。
そのために署に戻っているといっても過言ではないぐらいに。
だが、相手はまだ20代前半。
こちらは当時、30過ぎ。
どうもこうも、結果は初めから見えているようなもの。
勝手に壁を作れば進展などあるわけもなく、あっという間に2年ほど経った、ある日。
その日は、署内の長椅子で夜を明かした。
背もたれに置いたはずのジャケットが消えていて焦っていると、
「これ、アイロン掛けときましたから」
彼女が穏やかに微笑みながら差しだした。
受け取ろうと手が触れ、目が合った瞬間。
「け、結婚してくれ!」
うれしさあまって完全に血迷い、そんなことを口走ってしまった。
しかし彼女は……。
「仕事、辞めなくてもいいなら……」
はにかみながら、たったひと言だけそう言ったのだ。
その後の交際期間もごく短く、新婚旅行もない。指輪だって安物だった……。