ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ2 【完】



どこからか聴こえてきた。気泡が水中から出るときに奏でる音が。

僕は周囲を見まわす。

この部屋の中に、液体と呼ばれるモノは2つ。

横たわる新八の頭から流れる夥しい血液と、写真を浸す現像液。

僕は立ちあがり、流しをのぞきこむ。

「おおー……」

2枚目も、なかなかの完成度。

1枚目より、伊達磨理子がはっきり大きく写っている。

ピンセットで持ちあげ、空気にかざして、まじまじと見た。

「これは高値で売れるな」

自然に頬がほころぶ。

「ぁれ……」

だが、一瞬にして背筋が凍りつく。

たしか僕はあのとき、1秒間に数枚撮れる連写設定にしていたはず。

そうするとこの被写体は、0.何秒でこんなにも近付いてきたことになる。

――キイイィーーーーーンッ。

「ィ゛! ッ……」

突如、鼓膜に激しい痛みを感じた。

「な、なんだ……これ!?」

そんなことよりも、浸けてある最後の写真に意識は釘づけ。

「黒い……?」

撮影ミスか、カメラの故障か、写真はまっ黒。

液から取り出してかざすと、ひとすじの黒い糸が垂れた。

指先でつまみ、引っぱってみる。

「う゛あ゛ぁ゛あ゛っーー!!」

なんとその糸は、写真から生えていた。

放り投げるように流しへ戻した、次の瞬間!!



――ゴボゴボゴボッガボゴボッ。



まるで、人間が水中で息をしているかのように、現像液が荒々しく波打つ。

「あ゛ぁあぁあぁ……」

腰が抜け、身体が壁に強く打ちつけられた。

そのとき僕の脳裏によぎったのは、敬太の教え。

『彼女の前では、瞬きをしてはいけない』



 
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