ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ2 【完】



――チッ、タッ。

ベッドの上。

部屋の隅に置いている時計の音がやけに気になる。

――チッ、タッ。

よく言えば、研ぎ澄まされた集中力。

悪く言えば、極度の緊張状態。

――チッ、タッ。

3時3分まで、あと2分を切った。

――チッ、タッ。

時間が刻まれるたびに、心臓の鼓動が秒針の音を追い越していく。

――チッ、タッ。

あと1分。

暗い部屋の中で目を閉じると、燃やしたはずの記憶がよみがえる。

心許した友の笑顔、信頼を寄せた刑事。

そして……最愛の人。

――チッ。

思い返せば、初めてだ。鬼として迎える夜は。


――キイィイィーーーーーンッ。


……来た。

鼓膜を揺らす甲高い耳鳴りと、ただならぬ邪気。

……ドコだ!?

磨理子さんの視線を、俺はすでに感じ取っていた。

……ドコだ!?

そろそろ聞こえてもいい頃。

肘から上を床に突っ立て、臀部から上を引きずるあの音が。


――…………。


来ない。



「…………」



やはり、来ない。

「ッ、ハァ……ハァ」

息が詰まるほどの緊迫感が、5分を経過した。

俺は耐えきれずに上体を起こし、ベッドから足をおろす。

「ッ゛!?」

床はフローリングのはず。

だが、動物の毛のような、とてもやわらかい感触がする。

その違和感に、足もとを見た。

と!!


「ぁ゛!!」


股の間から、磨理子さんがじっと見あげている。

床にまるで黒い翼のような、長い髪を広げて。



 
< 163 / 172 >

この作品をシェア

pagetop