ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
「小さいわね……小指の骨かしら?」
いぶかしげにつまんで取った小さなそれを、
「な゛⁈」
――バリッ! ボリッ!!
躊躇なく、口の中に入れて噛み砕く。
「何やってるんだ!!」
即座に、担当の職員と警備員が君江を取り押さえた。
「は゛な゛せ゛ぇ!」
激しく抵抗し、テーブルと椅子が乱舞する。
とっさに俺は新八を守り、腕で抱きかかえた。
「夫とまたひとつになりたいの! 返して、返して……」
目を血走らせ、まさに鬼の形相。あまりの変貌ぶりに、恐怖でしばし立ちすくむ。
「大橋君! 面会は終わりだ! 今すぐ下に降りなさい」
「……は」
「早く!!」
「はい!」
言われるがまま逃げるように談話室を出たが、
「待てぇ゛―! 返せ゛―!」
フロアの隅まで君江の唸り声が響き渡っていた。
無我夢中で病院を飛び出した俺を、車から降りた宇治木が緊迫した表情で出迎える。
「ど、どうした⁉」
「ハァ、ハァ――」
頭から離れない。君江の本性が。
この取り乱した心を真似ているのか、はたまた嘲笑っているのか、辺りを囲む木々は前後に激しく揺れていた。
「…………」
いいや。もしかしたら、“こちらへ来い”と手招きしているのかもしれない。
「ぁ!」
ともすれば、フッと甦る記憶。
「お、おい! 敬太君!」
俺は森に向かって走りだす。
「急にどうしたんだよ⁈」
「思い出したんです、新八さんの最期の言葉を!」
あの山小屋に何かある。
唐突に、無性に、確かめたくなった。