ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
「ぁでも、やっぱり寝る! 帰りに事故起こしたくないし」
「え⁈ ハ⁉」
思わせぶりな態度を取ってからのお預け。これが男を手玉に取るテクニックか。
彩矢香はタオルを巻いたまま背中を向けて横になった。
「ねぇ……」
悶々としながら見つめていた僕は、その背中にあったキズを指でなぞる。
「これ、どうしたの?」
「……ぅん。実は私、アメリカで手術したんだ。脊柱側彎症っていう病気で」
「ぇ⁈」
彼女の言う病名には聞き覚えがあった。
たしか、トップアスリートを特集する番組で、世界最速の男がその病を克服したと言っていたから。
「じゃ……」
「うん。背中に手術の痕があるの」
「……見せて」
しばし沈黙した後、おもむろに起き上がって、締めつけていたタオルを少しずつ緩める。
「嫌いになったらごめんね」
「彩矢香……」
振り向いた顔には不安が表れていた。
僕が人差し指をバスタオルにかけると、彼女は腕の力を弱める。
そして、はらりと露わになった裸体。
「…………」
言葉が出なかった。
背中の中心にある縦に長いその痕を、ただ指でなぞる。
「なんか、着ぐるみみたいでしょ?」
精一杯明るく振る舞おうとする彩矢香が無性に愛おしくなって、僕は抱きしめた。
「ありがとう、彩矢香。勇気を出してくれて」
「たっちゃん……」