ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
ちょうど同じ頃、人とは違う特異な部分を自覚する。
私はどうやら、一度見たもの聞いたことは、絶対に忘れないらしい。
ただ、カッコがある。(興味のあることだけ)
幸いなのか災いか、私は勉強に対して好意を抱いていた。
だから教科書を一度見れば、ほぼ記憶に留めておくことができる。
すでに実験済みで、国語辞典を読み通したことがあるが、ランダムに問題を出すそらは興奮しながら言った。
『すごい暗記力! 天才! さっちゃん、絶対天才だよ!』
その言葉にピンと来なかった。記憶力が良いほう、ではないと気付いたのだ。
表現するなら、頭の中に国語辞典がインストールされて、指で索引するようにページをめくるわけで、言い換えれば“歩く電子辞書”。
心の高揚が研究者の域まで達したそらは、部屋にあったファッション雑誌を持って、私を再び被験者にした。
だが、実験は失敗。
興味のないことに関しては、ポンコツの記憶力だった。
もちろんそんな自分のことが気になって、ネットで調べてみる。
【ハイパーサイメシア(超記憶症候群)】
と言うらしく、世界でも数十人ほどしか確認されていない極めて珍しい症例らしい。
私はその時、病気なの?と、受け入れたくなかった。
しかし、【彼らは円滑に他人とコミュニケーションがとれない傾向がある】という記述に、受け入れざるを得なかった。
5年生になり、私とそらはいつもふたりでいるようになった。
私のせいで、彼女も仲間外れになったのだ。
だけど、いじめられていたわけではない。
ハッキリ物を言えるそらのおかげで、弱い心の持ち主たちは寄りつかなかった。
でも、何度か言ったことがある。
『私のせいで、ごめん』
って。その度に、彼女は激しく怒った。
『もっと自分に自信を持ちなよ! そういうところがキライ!』
と言い放ち、私から離れてすたすたと歩き、
『ほら、帰るよ』
って振り返り、手を伸ばす。
それでは足りずに抱きつくと、
『よし、よし』
と、頭を撫でてくれた。
そらはとても正直で、その悪口は泣けるぐらい嬉しく、やっぱり優しい。
ずっとずっと一緒にいたい。心の底からそう願っていた。
叶えられるものだと、信じて疑わなかった。
でも、美しいものは薄命で……。
ふたりで過ごした時間は、まるで叶わぬ夢の流れ星だった。