ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
復讐の女神。
その言葉で、磨理子への深い敬愛を察知した。
大貫幸恵を危険因子と判断してクギを刺す。
「でも、磨理子さんの怨念はこの世から消えましたよ。僕が成仏させたんです」
「どうやって⁈」
「…………」
言いたくなかった。あのときの“ありがとう”は、俺だけの大切な記憶に収めておきたいから。
「もう十分でしょ。お帰りください」
俺が椅子から立ち上がると、
「待って! あと1つだけ!」
彼女は必死にすがる。
「暴露本を書いたきっかけを教えて。お金になると思ったから?」
ほのかに口元を緩ませる表情に、突沸する感情。
「バ、バカにしないでください!!」
掴まれた腕を振り払ったが、彼女は眉ひとつ動かさない。
「じゃあ、何故?」
「くっ……」
怒りにかまける幼稚な俺と、大人の対応を見せる彼女。
たった一度の会話で、“人”として大きな差がついたと感じた俺は、少し意地悪な方法でその差を埋めようとした。
「あなたは、インドの数字の数え方で、15を何と言うか知っていますか?」
到底分かるわけがないと思っていた。が……。
「えっと……エク、ド、ティン、チャール、パンチ、チェ、サト、アト、ノウ、ダス、ギャラ、バラ、テラ、チョウダ……パンドラ?」
「ッ⁉」
すんなりと、さらに上をいってしまう。
「せ、正解です」
俺でさえ、15以外は憶えていなかったのに。
「それが、何?」
完敗を喫した気分の俺は、早々にまとめに入った。
「ある日見つけたんですよ。15枚のDVDが入った箱を。それには、鬼畜の所業を尽くしている男たちの姿が映っていました」
「なるほど。パンドラの箱を開けてしまったというわけね?」
「…………」
あろうことかオチまで横取りされて、恥ずかしさで居ても立ってもいられなくなる。
「はい。映像を見た瞬間に、伊達事件を世の中へ知らしめたいと思ったんです」
「……そぅ」
彼女は満足したのか、椅子から立ち上がった。
「ありがとう。これで決心がついたわ」
「…………」
俺にはもう、捨て台詞のように吐いた言葉の真意を追求する余力がない。
玄関を出た彼女は、身体を反転させて深々と一礼。
スタスタと歩きだすその背中が、俺には嗤っているように見えた。