ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
それから1年後。2016年2月。
俺の書いた暴露本は10万部を突破。
得た印税を全額、どこかの財団に寄付しようと本気で考えたが、偉い人の車が高級車に変わるだけだと宇治木から聞いて、思いとどめた。
何か活かす方法はないかと悩んだ末、群馬にある木造平屋の一軒家と、広い土地を買うという選択を取る。
自然に囲まれた穏やかな場所で、近くには俺が建てた磨理子と新八が眠る墓。
そんな田舎で自家農園を営みながら、月命日には必ず花を添え、贅沢をせず慎ましい自給自足の生活を送る。
沙奈にこのことを話すと、
「あのとき言ってたことを叶えるんだね」
なんて、しっかりと憶えていてくれたのが嬉しかった。
俺は軽いノリで、
「一緒に来る?」
と疑問符をぶつけ、彼女は、
「うん! 行く!」
と迷いなく答える。
これは紛れもなく愛だと実感し、今度は俺が男としてその思いに応えるべく、ある決意を固めた。
奇しくもその日は、磨理子がこの世を去ってから初めて迎える正真正銘の命日。
自信はそこそこ、不安は奥底で、一世一代のプロポーズ。
「沙奈、愛してる。僕と結婚してください」
……結果彼女は、瞳と左手の薬指に、まばゆい宝石を光らせた。
幸せの絶頂にいた俺だったが、同2月29日の午前3時03分――。
新宿の街は騒然となった。
「な゛、なんで⁉ そんな……」
巨大なビジョンに突如映し出された、呪われし禁断のゲームの掲示板。
磨理子の怨念が消えた瞬間を目の当たりにしていた俺にとっては、まさに青天の霹靂。
しかも、それだけじゃない。
【助かる方法はただ1つもありません。】
絶望的な形へと、末尾の文言は進化していたのだ。
死の呪縛が再びこの世に蘇り、またも日本中で手足の無い若者の死体が見つかる。
その背筋も凍る恐怖には、真冬の冷たい風も敵わない。