ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
その日は、半袖でも肌寒くない朝だった。
洗面台の前で浮かない顔をする沙奈に声を掛けて一日が始まる。
「どうしたの? 体調でも悪い?」
「……うん。最近、少しね」
「じゃあ、今日の墓参りは俺ひとりで行ってくるよ。その前に病院へ寄ってく」
俺は水玉模様のカップから、柄が青色の歯ブラシを手に取る。
「でも……」
沙奈はそう言いながら、赤色の歯ブラシを持った。
「たまにぐらい俺たちが一緒じゃなくても、ふたりは怒ったりしないさ」
「……そうかなぁ」
最後まで一緒に行くべきだとごねていたが、俺の説得に応じて、隣町の病院前で車を降りる沙奈。
「たいしたことないといいね」
「……ぅん」
「迎えに来てほしいときは電話して」
「……分かった」
ルームミラー越しの彼女は、物憂げな表情をして見送っていた。
少し気にはなったが、引き返して問いただすまでもないと角を曲がり、よく行く花屋へと向かう。