ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
「おばちゃん、いつもみたいに繕ってよ」
「あいよ!」
俺はそこで初めて、財布を忘れたことに気付いた。
「ごめーん! いつも妻に任せてたから……」
「別に今度でもいいんだよ。どうせ月に一回来るだろ?」
「そういうわけにはいかないよ。一旦、財布取りに戻るわ。花はそのままにしといて!」
「あいよ。律儀だね~」
愛車の軽トラに乗り込み、家へと続く道を進む。
閉めたはずの古い門扉が風に揺れているのを見て、エンジンを止めた。
「おかしいな……」
家の中に入ると、妙な違和感はさらに増す。
――……。
誰もいないはずなのに、人の気配を感じる。
「誰かいるのか⁈」
――……。
耳を澄ませて聴こえてくるのは、時計が時を刻む音だけ。
思い過ごしだと靴を脱いで居間に向かう。
何の気なしにスッとふすまを開いて、
「ッ⁉」
絶句した。
目の前に見知らぬ男が立っていたから。
「だ、誰だ⁉」
相手は逃げる様子も一切なく、俺をただじっと見ている。
「待ってたで」
一歩、前に踏みだす男。
「な゛、俺を⁈ 目的は何だ!」
俺は一歩下がって問う。
「目的? カノジョを手に入れるためや」
「彼女⁈ ま、まさか沙奈を⁈」
「……フッ」
男が不敵に笑った、次の瞬間。
――ドゴッ゛!
俺は背後から衝撃を受けた。
床に倒れ、薄れゆく意識の中、俺を殴ったであろう男が見下ろして言う。
「あかん。えらいドツいてし…も………たわ——」