ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
「どうぞ、お入りください」
フロアの照明と同程度の薄暗い面持ちで、看護師は霊安室へと俺たちを導く。
「刑事さんはちょっと」
しかし、俺と沙奈を蚊帳の外にするように、金属製のドアは閉められた。
「新八さん……」
顔に掛けられた白い布を捲る気にはなれず、線香をつまんで立てた。
――……。
狭い静寂に包まれ、哀惜の傷口が広がる。
数分後、嗅ぎ慣れたくはない煙が大きく揺れたのは、宇治木がドアを勢いよく開けたから。
「何の話だったんですか?」
合掌したあとで訊くと、彼は浮かない顔をして答える。
「遺体を引き取れる親族を知らないかって」
瞬時に頭をよぎったひとりの女性、兵藤君江。
新八の後妻であり、磨理子の継母でもある。
だが、病院に幽閉されている君江に引き取りは不可能。
そもそも、彼女が伊達事件の影の首謀者だと知る俺は、新八さんを渡したくないと嫌悪感が湧く。
「他に親族がいないか捜しだして、遺体を弔ってもらうよ」
そう呟き、冷たくなった手を握る宇治木。
「本当に……お疲れ様でした。もうすぐ奥さんに会えますよ」
彼は新八を実の親のように見つめながら語りかけた。
話すべきか……、真実を。
「…………」
いいや、知らないほうがいい。
俺は静観し、真実をも喪に服させる。
この時はそれでいいと思っていた。