ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】



優しく助言をくれるその女性は、俺たちとそう歳は変わらなく見えたが、仕事柄か冷静で気丈。

俺は少し震える手でおもむろに、肋骨の一部を拾い上げた。

隣にいる沙奈に渡さなければならないが、ふいに箸が止まってしまう。

「どうしたの?」

彼女は心配して、俺の顔を覗きこむ。

「想像してしまったんだ。もしも親が死んだら……って」

「……そうね。こういう悲しさには慣れたくないな」

拾い手が少なく、収骨には時間を要した。

「行こうか……」

宇治木は壺を木箱に入れ、大きな骨覆で結ったあとに言う。

扉を開けたまま、深々と頭を下げて送りだす女性スタッフ。

こういった場面に寄り添うのは慣れているはずなのに、先程までは気丈に応対していたのに、鼻を何度もすすり、手袋で涙を拭っていた。

火葬場を出た直後、

「このまま病院に行く?」

と、俺たちに判断を任せる宇治木。

沙奈はやはり、君江に会いに行くことを拒んだ。

彼女の自宅前で降ろすと、三度目の催促。

「本当に行かないの?」

「……はい。少し体調が悪いので」

それで宇治木はようやく諦め、車を発進させた。

高速で駆け抜ける景色を眺めながら、ふと思う。

新八の遺骨は兵藤家の墓に納めることを拒否されたが、そうなると娘である磨理子の遺骨は、一体今どこにあるのか。

もしも君江が隠し持っているとしたら……。

「寒い? 窓、閉めようか?」

「いいえ。大丈夫です」

ただただゾッとする。



 
< 7 / 160 >

この作品をシェア

pagetop