ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
片田舎の山奥にある寂れた精神病院。
サイドブレーキを引き、宇治木が声を静めて言う。
「あとはキミに任せるよ」
ここは警察関係者の出入りが禁止されている場所。
「行ってきます」
「うん。新八さんも望んでいるはずだから……」
たしかにそうだ。
『いくら恨んでも、深く憎んでも、愛おしいんだ。君江が』
あのとき語った思いを参照すれば、宇治木と同じ答えになる。
だがしかし、俺は幾ばくかのザワメキを感じていた。
重い足取りで正面玄関をくぐり、受付の窓に顔を出す。
俺に気付いた職員は、満面の笑顔で出迎えてくれた。
「大橋君! ひさしぶり……でもないっか?」
「えぇ、そうですね。この前は粋な計らいをありがとうございました」
「いやいや! で、今日も君江さんに面会かな?」
俺は手に持っていた物を台の上に置く。
「今日はこれを届けに」
途端、ギョッとする職員。当然の反応。
「ぃ゛、遺骨⁈」
それが誰の変わり果てた姿かを説明すると、触るのでさえも抵抗があるのか、中を確かめずに院内へ通す。
恰幅のいい警備員が案内してくれたのは、またも談話室。
今回は訊くまでもなかった。
遺骨の受け取りに鉄格子があっては忍びない。人道的観点からの計らいだろう。
数分後、職員に連れられて君江が姿を現した。