ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】



だけど、心を折ることはなかった。

宝泉グループの社訓に、【忍耐】という文字が刻まれている。

簡単にあきらめない根性があるのかどうか。

私は試されている。すでに経営者としての採用試験が始まっているんだと、そう思ってがんばった。

勉強だけじゃない。父を見習い、人に優しくあることを心がける中学生活。

ある日、

『親がうるさいんだよね~。サヤとは仲良くしとけって』

『やっぱり? うちもだよ! うちの親、フレンチの店やっててさー、サヤの父親がよく来るんだって。かなりお金落としてってくれるらしいよ』

『落とすって、なに?』

『ん~……いっぱい高いの注文してくれるとか、大人数連れてくるとか?』

『あぁーなるほど』

友達だと思っていた子が、トイレの鏡の前で話していた。

私は個室から出られなかったけど、泣きもしない。

いいんだ、それでも。

会社のトップに立てば、辛いこともたくさんあるだろう。裏切られるときだって。

人との駆け引きが自分を成長させて、人への優しさが会社を大きくする。

何度も読み返した父の本にはそう書いてあった。

耐えろ。耐えろ。信じていればきっと、努力は報われる。

何度も自分に言い聞かせた。

父への憧れだけが生きがいで、母の優しさが支え。

そして、可愛い弟の癒し。

歳が離れていることは幸いだったのかもしれない。

私の足にしがみつくのを趣味にされたら、性別による嫉妬も吹き飛んだ。

聖矢に罪はない。子は親を選べないのだから。



 
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