ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】
このままいけば、落ちる所まで堕ちてしまう。
いくら心は荒んでいても、犯罪者になりたいわけじゃない。
少しでも軌道を修正するために、環境を変えたいと思った。
だから私は、アメリカへの留学を決める。
心機一転と言えば聞こえはいいが、実際はただの逃亡。ありとあらゆる若気の罪から逃げたかっただけ。
学業はそこそこに、毎日遊んで飲んで騒いで。
だけど、ハロウィーンだけは気が進まなかった。
今の自分に満足していないのに、何かに成り代わって、
『Say Cheese!』
なんて、どこが楽しいのか。あんなのは、現状が頭打ちでも疑問すら感じない楽天家がすること。
日本だろうが外国だろうが、どこも同じだ。くだらない。
ネイルを変えただけで、SNSには数百のいいねがつく人脈があっても。
くだらない。くだらない。
自分にはもっとやるべきことがあるはず。
でも、その見つけ方がわからずに苦しみ悶えていた。
語るにはあまりにも空虚な大学生活が半分過ぎた頃、あの電話が鳴ったんだ。
『せ、聖矢……聖矢!』
通話と同時に流れた映像には、椅子に縛りつけられて目隠しをされた弟が映っていた。
『大切ナ弟ヲ助ケラレルノハオ前ダケダ。警察ニハ報セルナ。家族ニモダ。サモナクバ、弟ハ死ヌ』
誘拐した犯人は姿を見せず、加工された音声による脅迫。
電話が一方的に切られてすぐ、場所と時間を指定するメールが届いた。
犯人はあらかじめ計算していたようで、今すぐに帰国して向かわなければ絶対に間に合わない時間だった。
そこに身代金の要求はなく、独りで来ることが唯一の条件。
正直、一瞬だけ悩んだ。弟がいなくなれば、父はまた私だけを見てくれるかもしれないから。
だけど、気が付けば家を出ていた。
聖矢を助けるために、犯人の要求に従い、誰にも報せずどこにも寄らず。
こうして、指定された3月3日の午前0時にギリギリ間に合った。
そこには長く大きな煙突があり、異様な雰囲気を醸し出す建物がそびえ立っていた——。