ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】



このままいけば、落ちる所まで堕ちてしまう。

いくら心は荒んでいても、犯罪者になりたいわけじゃない。

少しでも軌道を修正するために、環境を変えたいと思った。

だから私は、アメリカへの留学を決める。

心機一転と言えば聞こえはいいが、実際はただの逃亡。ありとあらゆる若気の罪から逃げたかっただけ。

学業はそこそこに、毎日遊んで飲んで騒いで。

だけど、ハロウィーンだけは気が進まなかった。

今の自分に満足していないのに、何かに成り代わって、

『Say Cheese!』

なんて、どこが楽しいのか。あんなのは、現状が頭打ちでも疑問すら感じない楽天家がすること。

日本だろうが外国だろうが、どこも同じだ。くだらない。

ネイルを変えただけで、SNSには数百のいいねがつく人脈があっても。

くだらない。くだらない。

自分にはもっとやるべきことがあるはず。

でも、その見つけ方がわからずに苦しみ悶えていた。

語るにはあまりにも空虚な大学生活が半分過ぎた頃、あの電話が鳴ったんだ。

『せ、聖矢……聖矢!』

通話と同時に流れた映像には、椅子に縛りつけられて目隠しをされた弟が映っていた。

『大切ナ弟ヲ助ケラレルノハオ前ダケダ。警察ニハ報セルナ。家族ニモダ。サモナクバ、弟ハ死ヌ』

誘拐した犯人は姿を見せず、加工された音声による脅迫。

電話が一方的に切られてすぐ、場所と時間を指定するメールが届いた。

犯人はあらかじめ計算していたようで、今すぐに帰国して向かわなければ絶対に間に合わない時間だった。

そこに身代金の要求はなく、独りで来ることが唯一の条件。

正直、一瞬だけ悩んだ。弟がいなくなれば、父はまた私だけを見てくれるかもしれないから。

だけど、気が付けば家を出ていた。

聖矢を助けるために、犯人の要求に従い、誰にも報せずどこにも寄らず。

こうして、指定された3月3日の午前0時にギリギリ間に合った。

そこには長く大きな煙突があり、異様な雰囲気を醸し出す建物がそびえ立っていた——。



 
< 106 / 163 >

この作品をシェア

pagetop