ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】
好転とは、まさにこのこと。
入学から落ち着くまでの半月、まるで学園のアイドルだった。
『6カ国語話せるってホント⁉』
『どうしたらそんなに頭良くなれるの?』
『うちにも勉強教えてよ!』
そんな言葉が矢継ぎ早に飛んできて、私なりに精一杯愛想を振りまく。
絶対に二の足は踏まない。見た目も抜かりがないように、過度なダイエットも続けていた。
夏には成果が出て、何人かの友達ができたし、双子コーデも可能なまでに。
楽しかった。愉しすぎた。
SNS映えする写真をたくさん撮って、美味しいスイーツ巡りをして、絶叫コースターで雄叫びを上げる。
放課後も週末も青春のド真ん中にいて、中学の記憶がどんどん隅に追い払われてゆく。
うれしい誘いや自身の欲に応えるため、母の財布からお金を抜くなど言語道断。
だから、近所のパン屋さんでバイトをはじめた。
働くのは新しい発見があって面白い。
接客について店長からよく叱られるし、仕事の手際が悪くて失敗もする。
偏差値は仕事のデキに比例しないんだと、まざまざと思い知った。
だけどみんな諦めずに接してくれて、帰るときはいつも余ったパンをくれる。
『お疲れ様。今日はたくさん怒っちゃったから、特別にジャムもおまけだ』
『そんな! 私が悪いんで……』
『いやいや、サチエちゃんがいてくれて助かってる部分もたくさんあるんだよ。いつもありがとう。はい、どうぞ!』
本当は優しい店長の厚意。この日もらったパンが、少しだけしょっぱかったのは私だけの秘密。