ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】
9月4日。
愛依とあきほとおしゃべりしながら下校している最中、私は無意識に立ち止まってしまった。
厳密に言えば、足がすくんだ。
最初の曲がり角のところに、宝泉彩矢香が立っていたからだ。
彼女だけじゃない。山口基弘と他にふたりの男がいる。
『サッチー、どうしたの?』
『ぅ、ううん! なんでもない』
自信があったから踏み出せた。あの頃に比べて半分の体重になったから、気付くわけがないと。
しかし、トラウマが私をうつむかせる。
『あれ、どこの制服だろ?』
愛依も見つけて、興味を示す。
『男、ヤバイ感じじゃない?』
あきほも。むしろ、笑顔が花咲くバス停までの道を歩く全員が。
私だけだった。彼女らを視野に入れようとしなかったのは。
それがいけなかったのか、今にも通り過ぎようとするとき、悪魔が囁く。
『ねぇ、アイツ』
呼吸が荒くなる中で、必死に念じる。
来るな、来るな、と。
だが、
『お前、もしかして大貫か?』
背後で山口の声がした。私は無視して歩き続けたが、
『ねぇ、サッチー。呼んでるよ』
あきほが肩に手を置く。
『おぉー! ホントに大貫なのか⁈』
彼は前に回り込み、下から覗きこむ。行く手を阻まれ、止まるしかなかった。
『あなたたち誰ですか?』
『俺たち、彼女と同じ中学なんだよ。会いに来たんだ、わざわざ東京から!』
『……何の用?』
冷たく言い返すなんて、変わった証だ。弱いだけの私はもういない。