ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】
「なんだ、アレ⁈」
100メートルほど離れた入口に、黒い穴のようなものがポッカリと浮かんでいる。
門扉の左右についたランプは、踊り狂ったように点いたり消えたりを繰り返し、その正体を謎のベールに包ませた。
「よく見えないな……」
康文は幻影だと目をこすり、1秒間に何回も瞼を打つ。
「う゛わっ゛!」
すると、踏ん張りの利くこの芝生で、まるで地面が氷に変わったかのごとく足を滑らせた。
「どうした⁉」
「ぅ、う゛動いた!」
「ぇ……ッは⁈」
たしかに彼の言う通り、黒い影が大きく前進している。
「また⁉ ッ゛、まただ!」
ほんの一瞬、たった一瞬で、半分の距離を詰めた。
「まさか……」
美佐子の時もそうだ。異世界から現れるこの“子”は、視線を合わせていても迫って来る。
「ヤス! まばたきをやめろっ!」
「ぇ゛⁉」
そう、まばたき一つで這って来るのだ。
午前3時06分。残り、27分。
「そんなの゛ム、無理だろ!」
康文が意識すればするほど、黒い影は瞬間移動を加速させた。
——ズザッ!
「ひぃ゛⁉」
——ザザッ!
「ふぁ゛あ゛ぁ!」
もうすでにそれがヒトだとわかるほど、半分以上の距離を詰めている。
「タツミ、鏡を゛……鏡をくれ!」
「あぁ!」
腰を抜かしている彼の仰せのままに、裏を表にして手鏡を渡す。
——ズザザザザザッ。
——ズズザザザザザザザザッ。
「ヤ……ス」
彼は目を閉じていた。もう、腹をくくっているようだ。