ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】
——ザザザザザザザザッ。
——ズザザザザザザザザッ。
耳で感じている。カノジョの訪れを。
——ザザザザザザザザッ。
——ザザザザザッ。
康文との距離、3メートル。
「くッ……」
彼は、音を頼りに鏡を向けた。
だが……。
——ズザザッ。
「ッ゛⁉」
そのいびつな歩みを止めない伊達磨理子。
しかと“鬼”を見据えている。黒目が白く、白目が黒い戦慄の瞳で。
「う゛⁉」
鏡を裏返した康文は愕然とした。
「わ゛⁈ 割れてる!?」
「……フッ」
さぁ、舞台は整えてやったぞ。
呪いの化身よ。僕の計画を邪魔するコイツを、悲哀の脇役にするのだ。
「鏡……」
しかし、康文は助かる可能性に賭けて走りだす。
想像するだけで笑いが止まらない。
彼が体験する最期の絶望に、僕は立ち会えるのだから。
「うそだう゛そ゛だ……ななんで⁈」
トイレの中にあった鏡を見て、錯乱状態に陥る康文。
実に哀れで、可笑しい姿。
——ズズッ。
——ザザザザザザザザッ。
太陽が雲に隠れたように、周囲がさらなる暗がりへ。
「ぁ゛……」
換気用の小窓に張りつく異様な影が、月明りを遮っていた。
しっかりと鍵をかけたその窓枠から、漆黒の長い髪の毛がモゾモゾと侵入してくる。
「ッ⁉」
やがて、小窓が髪のカーテンで覆われ、その中心から顔が浮き上がった。
「ひ゛い゛ぃ」