ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】



康文の行くあてのない恐怖が、いくつもの扉に手を掛けさせる。

「開かな゛い! 開かない゛!! タツミ、他に鏡がある場所は⁉」

「……無いよ。お迎えが来てるんだ。潔く死ね」

「く⁉ お前、ま゛さか……」

——ガチャッ。

とうとう袋小路に追い込まれた康文。

「…………」

風呂場にある鏡の破片を見て呆然としている。

「だから無いって言ったろ? 助かる方法なんて一つもないよ。少なくともお前には」

——バタンッ!

僕は扉を閉め、取っ手を力いっぱいに引く。

——ドン、ドンッ!
「開けろ、タツミ! おいッ゛!」
——ドンッ! ドンッ!

「タ……」

僕の名前を呼ぼうとしたのか、それとも助けを乞おうとしたのか。

康文は声を出すのを止め、磨りガラスの向こうで天井を見上げている。

そのとき!

——ドサッ!

上から黒い影が降ってきて、彼を覆い倒した。



——……。



十分に食事の時間を与えてあげた僕は、恐るおそるドアを開ける。

——カッ……チャッ。

「ヤス?」

彼は浴室の床に仰向けで倒れていた。しかし、意識はあるようだ。

「タ……ス……」

この期に及んでもまだ、僕に助けを求めている。

「キ……」

「え⁉」

ちがった。

「襷ヲ……」

「なに?」

耳を近づけると、

「タスキヲツナガナキャ」

そう言って、むくりと起き上がる。

靴も履かぬまま、外へ駆けだした康文。

追いかける気などない僕は、玄関から手を振らずに見送る。

「よしッ……」

あとは復讐の騎士団に任せればいい。

彼らが康文を捕らえ、僕の罪と一緒に遺棄してくれる。

ニヤつきを抑えきれないまま、玄関に鍵をかけ、門扉を閉めた。

すべてが僕の手の中で転がっているような、こんなにも愉快で爽快な気分は初めてだ。

ほとんど空になった年代物のワインボトルを片手に持ち、鼻歌交じりで2階へ上がり、彩矢香の面影が染みこんだ枕に顔をうずめる。

明日はとうとうクライマックス。

ふたりの愛で呪いを打ち砕き、永遠の絆を手に入れる日だ。



 
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