ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】
聴き慣れたメロディーがじわじわと迫ってきて、やがて僕の肩を叩く。
『もしもし……』
斎藤からの電話だった。
とにかく、大貫と康文と箱根の繋がりをしつこく訊いてくる。
しかし、すべてが右から左に流れてゆく。
『ん゛~……ちょっと、わかんないっす』
通話を切った後、目を閉じたまま、半分起きている頭で考えてみた。
康文は、大貫にわざと足をかけて転ばせた過去がある。
そういえば同窓会のとき、あいつが箱根の山で転倒した時の話を彩矢香としていた。
「あ!」
なるほど。康文が遺棄された場所にも、過去になぞられた理由がある。
「そういうことか……」
ひらめいてしまえば、当然目も覚めた。
1階に下り、何気なくテレビを点ける。その足でキッチンへ向かい、聖矢の朝食に着手した。
タマゴを割るのにだって気合がいる身分。だが、彼女の顔が画面に映れば、その手が止まらないわけがない。
《『父は先程、息を引き取りました。通夜は身内のみで執り行い、葬儀の日程に関しましては、後程各所に通達致します。』
『宝泉グループのCEOにはどなたが?』
『遺言書の命により、私が引き継ぐこととなりました』
『彩矢香さん。あなたが社長の座に就かれるということですね?』
『……はい』》
涙ひとつ見せずに毅然と応対する新社長。
演出をアドバイスしたのは、おそらく僕の親父だ。
「死んだか……」
計画だと、もう少し後になるはずだった。
大きく前進したナイトが、嬉しい誤算を生む。
あとは、彩矢香との縁談をご破算にしなければチェックメイト。