ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】
少し考えこんだ聖矢は、か細い声で言う。
「たくさん人が来るの?」
「えぇ。来るわね」
そして、これまでにない大きな声と強い力で、
「イヤだ!」
——バタンッ!
勢いよくドアを閉めた。
「「…………」」
父親の死をもってしても、聖矢の心は固く閉ざされたまま。
僕らふたり、容易に理解できた。彼の将来は絶望的だと。
「お母さんの傍にいるよ。僕が」
「……ダメ。弟の面倒を看てくれて本当にありがとう。疲れたでしょ? たっちゃんは家に帰って」
「ぇ……」
やっぱりそうだ。
「なんか、よそよそしいね。支えたいと思う僕の気持ちは迷惑なの?」
責めるつもりはなかった。だけど結果的にそうなって、彩矢香は涙を溜めて言う。
「わかってよ゛……私が今たっちゃんに頼ったら、お母様みたいに゛なってしまう。そんな姿、数千人の社員にも会社を託してくれ゛たお父様にも見せたくないの!」
「彩矢香……」
彼女の覚悟を見た。必要とされているからこそ、身を引く愛もあると知る。
「わかった。でも、今夜のこと忘れてないよね?」
「ぅん。通夜を少し抜け出して行く」
待ち合わせの時間と迎えの場所を決め、ダウンジャケットに袖を通す。
「じゃ……気をしっかりね」
「……えぇ」
こうして僕は彩矢香の家を出て、数日ぶりの自宅に帰った。